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彼女がIターンで漆器職人になった理由

都市部で育った人が地方に移住する「Iターン」。近頃よく耳にしますが、実際に移住した人は、どんなことを考えて行動を起こし、そして移住したのちにどんな暮らしをしているのでしょうか? 

今回、東京から福井県鯖江市に移住した1人の女性を訪ねてきました。

女性の名前は嶋田希望さん。東京出身で現在26歳です。3年前までは東京で書店員をしていましたが、漆器の職人になりたいと漆器工房に入社をしました。

日本一のメガネフレームの産地として名の知られた福井県鯖江市ですが、実は業務用漆器の生産も古くから盛んで、木やプラスチックで作られたお椀の素地に漆を何層も重ねて塗る伝統的工芸品「越前漆器」には、1500年の歴史があります。

うちどこかで募集かけてましたっけ?

嶋田さんの職場、創業225年の歴史を持つ漆琳堂(しつりんどう)を訪ねると、モスグリーンやオリーブなど、鮮やかな食器「aisomo cosomo」シリーズや「お椀や うちだ」シリーズ、さらには漆を塗ったtokyobikeの自転車が並んでいます。

漆器というと旅館やちょっと良い和食料理屋さんで見かける古風なものを想像していたのですが、食卓が楽しくなるような、インテリアのような、そんな雰囲気が感じられました。

聞けばこのステキな器たちこそ、嶋田さんがIターンをした理由なのだそう。

嶋田:23歳の頃、東京のセレクトショップで漆琳堂の器をみて、オシャレな色を使った漆器がすごく印象に残りました。私も作りたいと思ってホームページを見ましたが、募集要項はなかったんです。

でも、行動してみないと始まらないということで、いきなり電話をしました。

驚くほどフットワークが軽い嶋田さんの行動に、漆琳堂8代目の専務・内田徹さんも「うちどこかで募集かけてましたっけ? と逆に質問するくらい唐突でした」と驚いたと言います。

幸運にも嶋田さんの電話は漆琳堂にとってもタイミングがよく、ちょうど事業拡大と後継者不足という課題を抱えていたところでもありました。

勇気を振り絞ってきた子に苦労をさせたくない

面談の末、受け入れを決めた内田さんですが、県外の人材を雇用することは初めてで、とても気を使ったといいます。

昔でこそ、丁稚奉公のように若い10代の頃から下宿して下働きをすることが多かった職人仕事ですが、最近では全国的に担い手がおらず、地域おこし協力隊などで移住を推進する動きも増えてきています。

内田:「せっかく勇気を振りしぼって移住してきた子に苦労をさせたくない」ということもありました。

最初、本人はアパートから自転車で30分かけて通うと言っていましたが、このあたりは雨や雪も多い地域なので、無理だろうなと思っていました。

だから近所の一軒家を借りる準備をしたり、鯖江市の補助金制度も調べて紹介したりしました。
東京から女の子がくるってすごく心配だったし、実家から遠くに住んで事故があると親御さんに申し訳ないと思ったからです。

Iターン3年目の塗師の仕事ぶり

漆器職人としての嶋田さんの仕事は「塗師(ぬし)」と呼ばれる器に刷毛で漆を塗る仕事。

この日は「千筋椀(せんすじわん)」という木目を活かした器を塗るというので、見せていただきました。

漆は天然樹液を加工したもので、塗料の中でも扱いが難しく、いわゆる経験と勘が求められます。嶋田さん、まずはあらかじめ色味を調節した色漆をフライパンで加熱し、和紙で濾しました。

温めることで漆の粘りが減り、塗りやすくなるからです。でも、温めすぎると焦げてしまったり、固まらなくなってしまうので、見極めが肝心です。和紙で濾すのは余計なホコリやゴミを取り除くためです。

準備が整ったら、刷毛で一点ずつ慣れた手付きで漆を塗っていきます。

黙々と、そして淡々と器を塗り続ける姿は凛としていて、職人そのもの。お椀や刷毛の扱いにも風格が感じられます。

やりたいことしかやっていない

今の仕事は「やりたいことしかやっていない」と言う嶋田さんに、どうしてそこまでフットワーク軽く移住をできたのでしょうか? 理由を聞くことができました。

ーー移住願望があった?

嶋田:まず漆の仕事ができればどこでも良いやと思っていたのと、東京にこだわっている自分がいなくて、新しいところで一人暮らしするのも楽しいかなと思っていました。

仕事があって住むところがあって、毎日過ごしている感覚はどこにいてもみんな一緒なんだろうなと思っています。私が特別だとは思ってなくて、普通のことですよ。

ーー東京では一般企業でオフィスワークをする人が圧倒的に多いですよね?

嶋田:私はパソコンとか、みなさんが一般的にできることが私は不得手なので、デスクワークよりも手を動かすことやものづくりを仕事にしたかったんです。それに、自分が作ったものが世に出るというのは興味深いですし、使ってくださっている人がいるっていうのは嬉しいですね。

ーー今後の展望は?

嶋田:とにかく自分がやりたいことを続けていきたい。今はやりたいことしかやっていないので、すごく満足しているんです。これがずっと続けばいいなと思うし、居続けるためには頑張って一人前になって、次に伝えないといけないので、毎日うまくなって、頑張り続けたいと思います。

・ ・ ・

何かを行動するとき、良い大人は後先を考えてしまう。こんなメリットや、あんなデメリット。あとこれも困るかもしれない……。

でも、ちょっと考えてみてください。ずっと悩み続けて結局何もしなかったら、あるいはずっと後悔していたら、それはデメリットしかないのではありませんか?

ときには嶋田さんのような思い切りも必要かもしれません。最後に一つだけ問います。

「あなたが本当にしたい仕事はどこでできますか?」

漆琳堂
〒916-1221 福井県鯖江市西袋町701(工房/直営店)
TEL:(0778)65-0630
直営店営業時間:10:00~17:00
定休日:日・祝
※漆琳堂採用ページのご案内はこちら

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